ここ最近「好きなことを仕事にする」というワードがもてはやされている。今回は私自身の経験をベースとしながら、好きなことは本當に仕事にできるのか?という點について考えてみたいと思います。

ここでいう「仕事」とは、その好きなことで生活が成り立つくらい稼いでいるという意味合いにします。好きなことを仕事にできたら本當に幸せなのか。そもそも何故、好きなことを仕事にしたいのか。例えば、釣りが趣味だという人は「釣り」を仕事にしたいのでしょうか?それはあくまでも趣味の範囲であって、別の仕事をしている時間に釣りを楽しみたいだけなのかもしれません。

もっと言えば、仕事があるから「釣り」という趣味が楽しくなっているという部分もある。ゴルフが好きな人がそれを仕事にしようと思えば、もはやそこにはあの楽しいゴルフは存在しなくなるでしょう。

マツコ?デラックスさんが以前こんなことを言っていました。

「私は女裝という唯一の趣味を仕事に取られた」

この言葉はとても印象的でした。僕らはどこかで誰かの何かに踴らされています。心から楽しめるものをわざわざ仕事にする必要があるのでしょうか。

反対に、今度は好きなことを仕事にする必要があるという視點で物事を見てみます。スニーカーが大好きな人が、スニーカー屋さんで働くことになりました。大好きなスニーカーと毎日一緒です。しかし、彼は満足ではなさそうです。毎日、上司から雑用ばかり指示をされ、お客さんからはクレームが入る。気がつけばスニーカーに觸るよりも、レジを打ち、伝票を見ている時間の方が長いかも知れません。好きなことを仕事にしたのに…。僕はここに大きな落とし穴があると思っています。

好きなことや趣味を仕事にする場合は、そこに必ずクリエーティブなものがある必要があります。僕は先日、エヴァンゲリオンやシンゴジラで有名な庵野秀明さんの展示會に行ってきました。そこには仮面ライダーから始まり、ウルトラマン、ガンダムとそうそうたる日本のアニメ歴史を飾る作品がたくさんありました。

展示物を見ながら足を進めていくと、庵野さんの學生時代のコーナーが現れます。そこには庵野さん自身が演じているウルトラマンもありました。それを見た時に「これだ!」と思ったのです。庵野さんはアニメやキャラクターが好きだったと思いますが、そこでコレクターにならず、クリエイターになったわけです。自分で8ミリカメラを回し、模型を作り、自らがウルトラマンとして登場してしまうわけです。

好きなことを仕事にする上で大事なのは、趣味の域を越えなければならないということ。そして、周りから「あいつバカじゃない」と首をかしげられ、白い目で見られても、どうしても作りたくなってしまう情熱と行動力が必要だということです。「好きなことを仕事にする」と簡単に言いますが、大事なのはその文面ではなく、気がついたら何かを作り始めている行動そのものです。

スニーカーが好きでたまらないなら、それを仕事にしたいなら、今まで集めてきたスニーカーを全て分析してこの世にひとつしかない自分が欲しいと思うスニーカーを作るべきなのです。その結果、友だちからはバカにされ、周りからは高い高い壁を作られるでしょう。それでもいいのです。大事なのはコレクターではなくクリエイターになり、トライ&エラーを何度も何度も繰り返すことです。そこで検証されたものが初めて商品となり、世の中に求められるのです。

僕はJリーガーになるときにクラブからお金をもらわない方法をとりました。その代わり、スタジアムの席を20席確保し、それを自ら売る方法でマネタイズを考えました。ただ好きなことをやるだけでなく、どこにどんな価値が存在するかを見極めて「仕事」を考えたわけです。結果はうまくいきませんでした。それは単純にトライ&エラーが足りなかったからです。

現在は格闘家としてリングに上がっていますが、僕は強さを売らずに生き様を売っています。今、僕には、たくさんのサポーターがいます。トレーニングを見てくれるトレーナーや身體をケアしてくれる治療家、栄養管理をしてくれる栄養士、食事を提供してくれるレストラン、活動資金をサポートしてくれる企業や個人。このメンバーは「格闘家?安彥」の応援ではなく、「挑戦者?安彥」の応援がメインです。ここに価値の変換と強みの相乗効果があり、それを生み出すのは紛れもなく自分の人生にかける熱量と行動力です。だから僕の職業は「挑戦者」なのです。

そして現在、この挑戦を経て生み出した「LIFETIMEプロジェクト」が始動しました。自己分析、自己マネジメントなどをテーマに「自らを変える」ためのものです。40歳からJリーガーを目指し、あらゆる方法を試しながら見極めてきた本質を自己內省することで「本當の自分」を知ってもらいます。それは自分がただ挑戦しただけではなく、そのトライ&エラーを一般化してプログラム化し、教材に変えたことが全てです。

好きなことや趣味を仕事にしたいなら、自らが自らの価値をクリエイトすることが必須條件です。そしてトライ&エラーを何度も何度も繰り返し、自分は何を育てたいのか、その育てたモノはどこに屆けたいのか、そしてそのモノに込められたメッセージとは何か。そこまでして初めて「好きなことを仕事にする」ことになるのです。

趣味レベルで仕事にしようなど思わず、その領域を超えるために自らがクリエイターとなって生み出す熱量と行動力が必要です。それを養うためには、テレビでタレントが話す上っ面な表現や、SNSの「いいね」ボタン、寫真をきらびやかに見せる加工、そこでやりとりされる表面上だけの言葉からも離れなければなりません。何かを自らが選んでいるようで、実は選ばされている事実をしっかりと受け止めて、自分自身と向き合う時間を圧倒的な量を持って作るべきです。

人生の醍醐味(だいごみ)は自分で判斷して選択して実行できることにあります。そしてその結果を何度も何度も切り返して育てることができるのです。まだ來てもいない未來に心配や不安を抱くより、起こしてしまった現実を受け入れて、圧倒的な努力を身につけるべきです。

そのためにも、本當に自分が好きなものが何で、それは自分にとってどういう存在なのかを明確にする必要があります。表面上だけの世の中にだまされないためにも、自己內省を繰り返し、自らを見つめ直す力をつけて欲しいと思います。

◆安彥考真(あびこ?たかまさ)1978年(昭53)2月1日、神奈川県生まれ。高校3年時に単身ブラジルへ渡り、19歳で地元クラブとプロ契約を結んだが開幕直前のけがもあり、帰國。03年に引退するも17年夏に39歳で再びプロ入りを志し、18年3月に練習生を経てJ2水戸と40歳でプロ契約。出場機會を得られず19年にJ3YS橫浜に移籍。同年開幕戦の鳥取戦に41歳1カ月9日で途中出場し、ジーコの持つJリーグ最年長初出場記録(40歳2カ月13日)を更新。20年限りで現役を引退し、格闘家転向を表明。同年12月には初の著書「おっさんJリーガーが年俸120円でも最高に幸福なわけ」(小學館)を出版。オンラインサロン「Team ABIKO」も開設。21年4月に格闘技イベント「EXECUTIVE FIGHT 武士道」で格闘家デビュー。8月27日の第2回大會で第2戦に挑み、2戦連続でKO勝利。12月10日の第3回大會にも出場予定。175センチ、74キロ。